韓国歴史学会の声明書全文 「韓国史教科書の国定化を中断せよ」

http://www.kyosu.net/news/articleView.html?idxno=29440

教授新聞   2014.8.29

 

 現政府の歴史教育に対する統制が強化されている。今年初めには編修制の復活を企てたかと思えば、今度は韓国史教科書の国定転換を図っている。韓国史教科書の国定化は、1974年の維新政権によって解放後初めて導入、施行され、歴史学会と歴史教育会はもちろん、一般国民の批判と反対に遭って2007年に改定教育課程によって完全に廃止された。ところが、教育部は、検定制を全面導入してからたかだか7年目にして、国定制に戻そうとしている。

 政府と与党の一角で韓国史教科書の国定化の主張が登場したのは、2013年の教学社の韓国史教科書騒動の時であった。教学社の教科書は、無数の誤りと剽窃、お粗末な学説のために歴史学界と歴史教育界から冷厳な批判を浴びた。また、国民からは親日と独裁を弁護する教科書であるとの指弾を受けた。それにもかかわらず、教育部は、既存の検定体制さえ無視して、教学社の教科書を庇護した。しかし、教学社の教科書に対する教育部の救援は、教育現場の常識的な判断と選択によって挫折してしまった。まさに今の時点で現れた教育部の国定化の試みは、その意図が何であるかを問わざるを得なくさせる。

 韓国史教科書の国定化の試みは、黄佑呂<ファン・ウヨ>教育部長官の就任後、本格化している。彼は、すでに与党の代表の頃から「6・25戦争について北侵説と南侵説を記述した教科書が併存」しているという、根拠のない事例を提示して(参考までに、北侵説を記述した韓国史教科書はない)、韓国史教科書の発行体制を改編する必要性を提起したことがあった。そして、長官候補者の国会聴聞会では、「歴史は国家が一つの歴史観で教えなければ、国論の分裂の種をまくことになりかねない」と述べ、「公論化過程」を経て国定制へと転換するという意思をほのめかした。また、教育部は、世論を収斂するとして、「韓国史教科書発行体制改善討論会」を去る8月26日に開催した。このような教育部長官の発言と教育部の動きを見る時、国定制への転換が推進されているという疑念を抱かざるを得ない。

 政権ごとに異なって想定され得る「国論」に立脚して国定教科書を作るというのは、時代錯誤的な発想に過ぎない。むしろ、「国論分裂の種」を蒔くことになるだろう。韓国の歴史教育界の反発と抵抗に直面することはもちろん、維新時代の悲痛な歴史を思い起こす国民もまた、決してこれを受け入れないからである。

 韓国史教科書の国定制が導入されれば、教育と研究はもちろん、韓国社会の健康な発展に多くの副作用をもたらすことになるだろう。

第一に、歴史教育が画一化され、民主社会の発展とグローバル化時代に必要な幅広く多様な思考の形成と創意的な思考能力を持つ市民を育てるのが困難になる。

第二に、政権の過度な干渉と統制を嫌う力量ある歴史学者が執筆を忌避することで、検定教科書よりも質の高い教科書が出版されることが期待しにくい。

第三に、歴史研究の成果と歴史教育に反映され、歴史教育の過程で提起された問題意識が歴史研究を刺激する「研究と教育の善循環構造」を破損させ、歴史研究と教育の発展に支障をもたらし得る。

第四に、各政権レベルでの干渉と統制がより容易になされるため、歴史教育をめぐる政治・社会的対立と葛藤を増幅し、歴史教育は混乱に陥る。

第五に、OECD諸国は言うまでもなく、朝鮮総督府でさえ中等教育課程では施行したことがなく、現在、思想統制が甚だしい一部国家でしか使用されていない国定制に戻るなら、大韓民国の国家的威信は墜落するであろう。

 さらに歴史の大衆書物があふれ、多様な歴史知識がSNSをはじめとする各種媒体を通じて刻一刻と流通する知識情報化・グローバル化の時代に、国定教科書を通じて国民の歴史意識を統制するのが不可能なことは、自明の理である。

 このような理由で、保守と進歩、専門家と非専門家を問わず、韓国史教科書の国定化に反対する国民的共感が形成されている。憲法裁判所は、すでに1992年に、国定制が違憲ではないが決して望ましい制度でもないという判断を下したことがある。そして、今年1月、政府と与党の一角が国定への転換の必要性を提起するや否や、大多数の言論は、社説を通じて、国制制は「歴史教育の退潮」をもたらす「時代錯誤的発想」「特に得るもののない危険な発想」ととらえて反対したことがある。一方、少し前に、全国の中・高校の歴史の教師と小学校の教師858人を対象にしたアンケート調査では、圧倒的多数の97%が国定への転換に反対した。したがって、去る8月26日に開催された教育部主催の討論会で、国定化に反対の意見が支配的であったことは、当然の結果だと言える。

 韓国の歴史学界もまた、国定制の弊害を指摘し、終始一貫して反対した。そして、民主主義社会にふさわしくない、国家が「教育課程」とともに「執筆基準」まで提示して執筆に制約を加える原稿の検定制度の問題点を改善するよう要求してきた。教育の自主性、専門性、政治的中立という憲法の精神に則って、歴史教育に対する国家の鑑賞と統制を最小化しなければならないと考えるからである。

 ここに韓国歴史学界は、下記のことを教育部に要求する。

 

1.政治・社会的葛藤を増幅させ、歴史教育を後退させるなど多くの副作用と悪影響が予想される韓国史教科書の国定化の試みを中断せよ。

1.編修機能の強化など、歴史教育を過度に干渉、統制しようとする試みを中断せよ。

1.歴史学界と歴史教育界が推薦した信望ある人士で「韓国史教科書検定制改善委員会」を構成し、現行の検定制度の問題点を修正せよ。

1.歴史教育が憲法の精神に則って、歴史研究および専門家の主導の下になされるよう、外部の不当な干渉と圧力を遮断せよ。

 

2014年8月28日

国史研究会、韓国歴史研究会、韓国古代史学会、韓国中世史学会、

朝鮮時代史学会、韓国近現代史学会、韓国民族運動史学