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韓国憲法裁判所決定「慰安婦」全文(2011年8月30日)

憲法裁判所 決定

【事件】   2006 憲マ 788 大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定第3条不作為違憲確認
【請求人】 別紙1. 請求人目録の通り
      代理人 別紙2. 請求人代理人目録の通り
【被請求人】外交通商部 長官 (訳者註:日本の外務大臣に相当 日本の外務大臣に相当 日本の外務大臣に相当)
      代理人 法務法人 ファウ

      担当弁護士 金ソンシク、黄サンヒョン、崔ユナ、朴シネ


主文
請求人らが日本国に対して有する日本軍慰安婦としての賠償請求権が、「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」第2条第1項によって消滅したか否かに関する韓・日両国間の解釈上の紛争を、上の協定第3条が定めた手続きに従って解決しないでいる被請求人の不作為は、違憲であることを確認する。


理由

1.事件の概要及び審判 事件の概要及び審判 事件の概要及び審判対象

ア.事件の概要
(1) 請求人らは、日帝により強制的に動員され性的虐待を受け、慰安婦としての生生活を強要された「日本軍慰安婦被害者」たちである。被請求人は外交、外国との通商交渉及びそれに関する総括・調停、国際関係業務に関する調整、条約その他の国際協定、在外国民の保護・支援、在外同胞政策の樹立、国際情勢の調査・分析に関する事務を管掌する国家機関である。
(2)大韓民国は 1965 年 6 月 22 日、 日本国との間に「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」(条約第 172 号、以下「こ
の事件の協定」とする)を締結した。
(3)請求人らは、請求人らが日本国に対して有している日本軍慰安婦としての賠償請求権が、この事件の協定第2条第1項によって消滅したか否か関して、日本国は上の請
求権が上の規定によって すべて消滅したと主張し、請求人らに対する賠償を拒否しており、大韓民国政府は請求人らの上の請求権は、この事件の協定によって解決したものではないという立場であり、韓・日両国間にこれに関する解釈上の紛争が存在するので、被請求人としてはこの事件の協定第3条が定めた手続きに従い、上のような解釈上の紛争を解決するための措置を取る義務があるにもかかわらず、これを まったく履行せずにいると主張し、2006 年 7 月 5 日、このような被請求人の不作為が請求人らの基本権を侵害し、違憲という確認を求める、この事件の憲法訴願審判を請求した。

イ.審判対象
この事件の審判対象は、請求人らが日本国に対して有する日本軍慰安婦としての賠償請求権が、「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」第2条第1項によって消滅したのか否かに関する韓・日両国間の解釈上の紛争を、上の協定第3条が定めた手続きに従って解決しないでいる被請求人の不作為が、請求人らの基本権を侵害するか否かである。
これと関連した上の協定の内容は、次の通りである。


[関連規定]
○ 大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定(条約 第 172 号、1965. 6.22. 締結、1965.12.18.発効)
大韓民国及び日本国は、両国及びその国民の財産並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題を解決することを希望し、両国間の経済協力を増進することを希望して、次のとおり協定した。


第1条
1 日本国は、大韓民国に対し、
(a)現在において1080億円(108,000,000,000円)に換算される3億アメリカ合衆国ドル(300,000,000ドル)に等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務を、本協定の効力発生の日から10年の期間にわたって無償で提供する。各年における生産物及び役務の提供は、現在において108億円(10,800,000,000円)に換算される3000万アメリカ合衆国ドル(30,000,000ドル)に等しい円の額を限度とし、各年における提供がこの額に達しなかつたときには、その残額は、次年以降の提供額に加算される。ただし、各年の提供の限度額は、両締約国政府の合意により増額されうる。
(b)現在において720億円(72,000,000,000円)に換算される2億アメリカ合衆国ドル(200,000,000ドル)に等しい円の額に達するまでの長期低利の貸付けで、大韓民国政府が要請し、かつ、3の規定に基づいて締結される約定に従って決定される事業の実施に必要な日本国の生産物及び日本人の役務を大韓民国が調達するところにおいて、充当される借款を、本協定の効力発生の日から10年の期間にわたって行なう。本借款は、日本国の海外経済協力基金により行なわれるものとし、日本国政府は、同基金が本借款を各年において均等に利用することができるのに必要な資金を確保することができるよう、必要な措置を執るものとする。
前記の提供及び借款は、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない。
2 両締約国政府は、本条の規定の実施に関する事項について勧告を行なう権限を有する両政府間の協議機関として、両政府の代表者によって構成される合同委員会を設置する。
3 両締約国政府は、本条の規定の実施のため、必要な約定を締結するものとする。

第2条
1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年 9月 8日にサンフランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなるということを確認する。
2 本条の規定は、次のもの(本協定の署名日までに各締約国が執った特別の措置の対象となったものを除く)に影響を及ぼすものではない。
(a)一方の締約国の国民で、1947年 8月15日からこの協定の署名日までの間に、他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益
(b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって1945年 8月15日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄下に入れられたもの2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって本協定の署名日に他方の締約国の管轄下にあるものに対する措置、並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。


第3条
1 本協定の解釈及び実施に関する両締約国間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決する。
2 1の規定により解決することができなかった紛争は、いずれか一方の締約国の政府が他方の締約国の政府から紛争の仲裁を要請する公文を受領した日から30日の期間内に各締約国政府が任命する一人の仲裁委員と、こうして選定された二人の仲裁委員が、当該期間後30日の期間内に合意する第三の仲裁委員または当該期間内にその二人の仲裁委員が合意する第三国の政府が指名する第三の仲裁委員との三人の仲裁委員からなる仲裁委員会に決定のために回付(訳者註:日本側協定文では「付託」) (訳者註:日本側協定文では「付託」) (訳者註:日本側協定文では「付託」)する。ただし、第三の仲裁委員は、両締約国のうちいずれかの国民であってはならない。
3 いずれか一方の締約国の政府が当該期間内に仲裁委員を任命しなかったとき、または第三の仲裁委員若しくは第三国について当該期間内に合意されなかったときは、仲裁委員会は、両締約国政府のそれぞれが30日の期間内に選定する国の政府が指名する各一人の仲裁委員とそれらの政府が協議により決定する第三国の政府が指名する第三の仲裁委員から構成される。
4 両締約国政府は、本条の規定に基づく仲裁委員会の決定に服する。


第4条
本協定は、批准されなければならない。批准書は、できる限りすみやかにソウルで交換されるものとする。本協定は、批准書の交換日に効力を生ずる。

2.当事者らの主張

ア.請求人らの主張要旨

(1)日本国が、請求人らを性奴隷に追い込んで加えた人権蹂躙行為は、「醜業を行うための婦女子売買禁止に関する条約」、「強制労働禁止協約{国際労働機構(ILO)第29 号条約}」等の国際条約に違反するもので、この事件の協定の対象に含まれたことはない。この事件の協定によって妥結したのは、韓国政府の国民に対する外交的保護権のみであり、韓国国民の日本国に対する個人的損害賠償請求権は放棄されていないのである。
ところが日本国は、この事件の協定第2条第1項によって日本国に対する損害賠償請求権が消滅したと主張し、請求人らに対する法的な損害賠償責任を否認しており、 これに反して、韓国政府は 2005 年 8 月 26 日、日本軍慰安婦問題と関連し、日本国の法的責任はこの事件の協定第2条第1項によって消滅せず、そのまま残っているという事実を認め、韓・日両国間に、これに関する解釈上の紛争が存在する。

(2)この事件の協定第3条は、協定の解釈及び実施に関する韓・日両国間に紛争がある場合、外交上の経路や仲裁手続きによる解決方法を規定することにより、締約国に上の協定の解釈と関連した紛争解決の義務を負わせているから、韓国政府には上のようなこの事件の協定の解釈と関連する紛争解決のための作為義務がある。

(3)また、韓国政府としては、大韓民国臨時政府の法統を継承したことを明示している憲法前文、人間の尊厳と価値、及び国家の基本的人権保障義務を宣言している憲法第10 条、財産権の保障に関する憲法第 23 条、及びこの事件の協定の締結当事者として、行政上の信頼保護の原則に立脚した作為義務があり、憲法第 37 条第1項所定の列挙されていない基本権である外交的保護権に対応した外交的保護義務がある。

(4)ところが、韓国政府は、請求人らの基本権を実効的に保障できる外交的保護措置や、紛争解決手段の選択等、仲裁回付等の具体的な措置を取らないでいるところ、このような行政権力の不作為は、上の憲法諸規定に違反するものである。

イ.被請求人の意見要旨

(1)行政権力の不作為についての憲法訴願は、公権力の主体に、憲法から由来する作為義務が、特別に、具体的に規定され、これに依拠して、基本権の主体が、行政行為を請求できるにもかかわらず、公権力の主体がその義務を怠る場合に[のみ:訳者追加] 許容されるものだが、請求人らは、被請求人の不作為に因って侵害された自分たちの基本権が何なのかを指摘しないでいる。請求人らに対する不法行為と、その責任の主体は、日本政府であって韓国政府ではなく、政府の外交行為は広い裁量が許容されるので、この事件の協定に従った紛争解決のための国家の具体的作為義務は認定されない。
また、韓国政府は請求人らの福祉のために、力の限り努力しており、国際社会でこの問題を持続的に提起してきたことがあるので、この事件の協定第3条第1項に従った作為義務の不履行があったと見ることはできない。

(2)請求人らが主張する外交的保護権は、国際法上、他の国の不法行為に因って自国民が被った被害と関連し、その国民のために国家が自らの固有な権限として取る外交的行為、または、その他の平和的解決方式を言うのであって、その帰属主体は「国家」であるのみで、「個人」が自国政府に対して主張できる権利ではないので、憲法上の基本権とは言えない。
さらに、このような外交的保護権の行使の可否、及び行使方法に関しては、国家の広範囲な裁量権が認定され、この事件の協定第2条の解釈上からも、一方の締約国が協定の解釈と実施に関する紛争を、必ず仲裁委員会に回付すべき義務を負うものではないので、この事件の協定に従った紛争解決手段の選択は、国家が国益を考慮して外交的に判断する問題であって、具体的な外交的措置を取るべき法的義務があるとは言えない。


3.この事件の背景

この事件に関する判断をするための前提として、この事件の背景及び全体的経緯を、まず検討して見ることにする。

ア.この事件の協定

この事件の協定の締結経緯、及びその後の補償処理過程
(1)解放後、韓国に進駐した米軍政当局は、1945 年 12 月 6 日に公布した軍政法令第33 号で在韓国旧日本財産を、その国有・私有を問わず米軍政庁に帰属させ、このような旧日本財産は大韓民国政府の樹立直後である 1948 年 9 月 20 日に発効した「韓米間財政及び財産に関する最初の協定」で、韓国政府に移譲された。

(2)一方、1951 年 9 月 8 日、 サンフランシスコで締結された連合国と日本国との平和条約では、韓国に、日本国に対する賠償を請求できる権利が認定されなかったし、ただ上の条約第4条a項に、日本の統治から離脱した地域の施政当局及び住民と、日本及び日本国民間の財産上の債権・債務関係は、このような当局と日本間の特別約定で処理することを、第4条b項で日本は、前記地域で米軍政当局が日本及び日本人の財産を処分したことを有効と認定することを、それぞれ規定した。

(3)上の条約第4条a項の趣旨に従い、大韓民国及び大韓民国国民と日本国及び日本国民間の財産上の債権・債務関係を解決するために、1951 年 10 月 21 日の予備会談以後、1952 年 2 月 15 日、第1次韓・日会談本会議が開かれ、韓国と日本の国交正常化のための会談が本格的に始まって以来、7回にわたる本会議と、これにともなった数十回の予備会談、政治会談及び各分科委員会別の会議等を経て、1965 年 6 月 22 日、この事件の協定と漁業に関する協定、在日僑胞の法的地位及び待遇に関する協定、文化財及び文化協力に関する協定等、4つの附属協定が締結されるに至った。

(4)被請求人が提出した「請求権関係解説資料」によれば、第1次韓・日会談時(1952年 2 月 15 日~ 4 月 25 日)、韓国政府は「韓・日間財産及び請求権協定要綱8項」(以下「8項目」とする)を提示したが、これは、
1.韓国から搬出された古書籍、美術品、骨董品、その他国宝、地図原版及び地金、地銀を返還すること
2.1945 年 8 月 9 日現在、日本政府の対朝鮮総督府債務を弁済すること
3.1945 年 8 月 9 日以後、韓国から移替または送金された金額を返還すること
4.1945 年 8 月 9 日現在, 韓国に本社または、主な事務所がある法人の在日財産を返還すること
5.韓国法人または自然人の、日本及び日本国民に対する日本国債、公債、日本銀行券、被徴用韓国人の未収金、その他の韓国人の請求権を弁済すること
6.韓国法人または韓国自然人所有の日本法人株式、またはその他の証券を法的に認定すること
7.前記財産または請求権から発生した果実を返還すること
8.前記返還及び決済は、協定成立後即時開始し、遅くとも6ヶ月以内に終了すること
の8項目である。

(5)しかし第1次会談は、上の8項目の請求権主張に対応した日本側の対韓・日本人財産請求権主張で決裂し、以後、独島問題及び平和線問題に対する異見、「日本国による 36 年間の韓国統治は、韓国に有益なことだった」とする日本側首席代表久保田の妄言及び両国の政治的状況等から、第4次韓・日会談までは請求権問題に関する実質的議論が成り立たなかった。

(6)その後、8項目についての実質的討議が成り立ったのは、第5次韓・日会談(1960年 10 月 25 日~1961 年 5 月 15 日)だったが、8項目の各項に対する日本側の立場は、概ね、第1項に関しては、地金及び地銀は合法的な手続きによって搬出したものなので、返還の法的根拠がなく、第2、3、4項に関しては、韓国が所有権を主張できるのは、米軍政法令第 33 号が公布された 1945 年 12 月 6 日以後のものに限り、第5項に関しては、韓国側が個人の被害に対する補償問題を持ち出すことに強く反発し、韓国側に徹底した根拠の提示を要求、即ち、具体的な徴用、徴兵の人員数や証拠資料を要求するものだった。このように第5次会談の請求権委員会では、1961 年 5 月 16 日の軍事政変によって会談が中断されるまで、8項目の第1項から第5項までの討議が進行したが、根本的な認識の差を確認しただけで、実質的な意見の接近をみることには失敗
した。

(7)よって、1961 年 10 月 20 日、第6次韓・日会談が再開された後には、請求権に対する細部の議論は日程のみ消耗されるだけで、解決が遥遠だという判断の下、政治的側面からの接近が模索された。1961年11月22日、朴正熙・池田会談以後、1962 年 3月の外相会談では韓国側の支払い要求額と日本側の支払い用意額を非公式に提示することにし、その結果、韓国側の純弁済7億ドルに対して、日本側の純弁済7万4千ドル及び借款2億ドルという差異が確認された。

(8)このような状況で、日本側は当初から、請求権に対する純弁済にすると、法律関係と事実関係を厳格に調べなければならないだけでなく、38 度線の南に限定されなければならず、その金額も少なくなり、韓国側が受諾できなくなるだろうから、有償と無償の経済協力の形式を取って金額を相当程度に引き上げ、その代わりに請求権を放棄するようにしようと提案した。これに対して韓国側は、請求権に対する純弁済を受け取らなければならない立場や、問題を大局的見地から解決するために、請求権解決の枠の中で純弁済と無償支払いの2つの名目で解決することを当初は主張し、その後再び譲歩して、請求権解決の枠の中で純弁済及び無償支払いの2つの名目でするが、その金額を各々区分表示せず、総額だけ表示する方法で解決することを提議した。

(9)以後、当時の金鐘泌中央情報部長は、日本で池田日本首相と一度、大平日本外相と前後二度にかけて会談し、大平外相との 1962 年 11 月 12 日第2次会談時、請求権問題の金額、支払い細目及び条件等に関し、両国政府に建議する妥結案に関する原則的な合意を見て、具体的調整過程を経て第7次韓・日会談が進行中だった1965年 4月 3日、当時の外務部長官李東元と日本の外務大臣椎名との間で、「韓・日間の請求権問題解決及び経済協力に関する合意」が成り立ち、1965 日 6 月 22 日、名目を区分表示せずに、日本が大韓民国に一定金額を無償及び借款で支払うが、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益と両締約国及びその国民間の請求権に関する問題を、完全にそして最終的に解決することを内容とする、この事件の協定が締結された。

 

(10)その後、韓国政府は 1966 年 2 月 19 日「請求権資金の運用及び管理に関する法(1982.12.31. 法律第 3613 号で廃止)を制定して、無償資金の内、民間補償の法律的根拠を用意し、以後 1971年 1月 19日 「対日民間請求権申告に関する法律」(1982.12.31.法律第 3614 号で廃止)を制定して補償申請を受けたが、その対象は日帝により強制により徴用・徴兵された人の内、死亡者と、上の会談過程で対日民間請求権者として議論されて判かっていた、民事債券または銀行預金債権等を持っている民事請求権保有者に限定され、その後 1974 年 12 月 21 日 「対日民間請求権補償に関する法律」(1982.12.31.法律第 3614 号で廃止)を制定し、1975 年 7 月 1 日 から 1977 年 6 月 30 日 まで合計91 億 8,769 万3千ウォンを支給した。

(11)日本軍慰安婦問題は、この事件の協定締結のための韓・日国交正常化会談が進行した間、まったく議論されなかったし、8項目の請求権にも含まれず、この事件の協定締結後の立法措置による補償対象にも含まれなかった。


イ.日本軍慰安婦問題の提起と進行

(1)1990 年 11 月 16 日、韓国挺身隊問題対策協議会の発足と、1991 年 8 月、日本軍慰安婦被害者である金学順(1997 年 12 月死亡)の公開記者会見を通じて、日本軍慰安婦被害者問題が本格的に提起された。

(2)日本政府はそれに関する責任を完全に否認し、軍慰安婦を、民間の接客業者が軍に付き添って連れていた「売春婦」と認識していることを示唆する発言をしたが、当時中央大学教授だった吉見義明が 1992 年 1 月、日本の防衛庁の防衛研究所図書館で、日本軍が軍慰安婦徴集に直接関与した関係公文書6点を捜し出すと、その立場を大幅修正せざるを得なくなった。

(3)被害者の出現と関連資料の発掘、及び内外の世論に押されて真相調査に着手した
日本政府は、1992 年 7 月、慰安婦問題に関する政府の関与は認定したが、強制連行を
立証する資料はないという1次調査結果を公表し、1993 年 8 月 4 日、 第2次政府調査
結果と共に日本軍及び官憲の関与と徴集・使役での強制を認定し、問題の本質が重大な
人権侵害だったことを承認して謝罪する内容の、河野官房長官の談話を発表した。

(4)慰安所は 1932 年上海事変時、旧日本軍兵士によって強姦事件が多発し、現地人の反発と性病等の問題につながると、その防止策として日本海軍が設置したのが最初だった。日本軍は 1937 年 7 月から、中日戦争で兵力を中国へ多数送出し、占領地に軍慰安所を設置したが、1937 年 12 月の南京大虐殺以後、その数が増加した。これには軍人に「精神的慰安」を提供することで、いつ終わるか判らない戦争から離脱しようとする軍人の士気を振い立たせ、不満を収め、特に日本語を知らない植民地の女性を「慰安婦」として「雇用」することで、軍の機密が漏れる可能性を減らそうとする意図も含まれていた。
1941 年からアジア太平洋戦争中、日本軍は東南アジア、太平洋地域の占領地域でも軍慰安所を設置した。公文書によって確認された軍慰安所設置地域は、朝鮮、中国、香港、マカオ、フィリピン等、日本が侵略した地域である。日本軍慰安婦の数は8万から10 万、あるいは 20 万程度まで推定されており、その内 80%は朝鮮女性であったし、その他、日本軍慰安婦被害者の国籍は、フィリピン、中国、台湾、オランダ等である。

(5)これについて韓国政府は、1993 年 6 月 11 日、「日帝下、日本軍慰安婦に対する生活安定支援法(法律第 4565 号)」を制定し、日本軍慰安婦被害者たちに生活支援金を支給し始めたが、日本政府は日本軍慰安婦被害者に対する補償は、この事件の協定で既にすべて解決された状態だとして、新しく法的措置を取ることができないという立場を固守し、1994 年 8 月 31 日、軍慰安婦被害者たちの名誉と尊厳毀損に対する道義的責任として人道的見地から、個別的な慰労金や定着金を支給できるし、政府次元でない民間次元から、アジア女性発展基金の助成等を模索しようという立場を表明した。

(6)韓国、台湾等の日本軍慰安婦被害者たちと支援団体は、アジア女性発展基金の本質が日本政府の責任回避だと判断し、日本軍慰安婦被害者たちを正当な賠償の対象ではない人道主義的慈善事業の対象として見る基金に、早くから反対の立場を表明し、韓国政府は日本政府を相手にアジア女性基金の活動を中断することを要求したが、受け入れられないと、上の基金からお金を受け取らないという条件で、政府予算と民間募金額を合わせて上の基金が支給しようとした 4,300 万ウォンを、被害者たちに一時金として支給した。

(7)一方、金学順をはじめとした9人の日本軍慰安婦被害者たちは 1991 年 12 月 6日、 日本を相手にアジア太平洋戦争犠牲者補償請求をしたが、2004 年 11 月 29 日、最高裁判所で上告が棄却され、敗訴として幕が降りた。上の訴訟過程で、控訴審である東京高等裁判所は、原告らが安全配慮義務及び不法行為を根拠とした損害賠償債権を取得した可能性があるが、これはこの事件の協定第2条第3項の財産、権利及び利益に該当し、すべて消滅したと判示した。また 1992 年 12 月 25 日に提起された釜山軍隊性奴隷女子勤労挺身隊公式謝罪等請求訴訟でも、1審で一部勝訴したが控訴審で破棄され、最高裁判所で 2003. 3.25. 上告不受理決定が下された。さらに、在日韓国人・宋神道等が 1993 年 4 月 5 日 提起した軍隊性奴隷謝罪補償訴訟も、2003 年 3 月 28 日、最高裁判所で最終棄却され終結した。

(8)これに対し韓国政府は、2004 年 2 月 13 日、韓・日会談関連文書の公開を命じる判決に従って関連文書が公開されると、国務総理を共同委員長とし被請求人を政府委員とする「民官共同委員会」の 2005 年 8 月 26 日決定を通じ、この事件の協定はサンフランシスコ条約第4条を根拠とし、韓・日両国間の財政的・民事的債権・債務関係を解決するためのものであって、日本軍慰安婦問題等のような日本政府等、国家権力が関与した「反人道的不法行為」に対しては、この事件の協定によって解決したとは見られないので、日本政府の法的責任が認定されるという立場を表明した。

しかし日本政府は、下記に見る米下院の決議案採択、2008 年国連人権理事会定期検討会議の「慰安婦」問題の解決を促す各国の勧告と質疑を盛り込んだ実務グループ報告書の正式採択に対抗して、
① 河野談話を通した謝罪、
② この事件の協定を通した法的問題の解決、
③ アジア女性基金の活動等を通して、
日本軍慰安婦関連問題が完結したと主張した。

 

(9)上のような一連の日本政府の措置及び態度は、被害者たちは勿論のこと、国際社会からも受け入れられなかった。
国連人権小委員会は、日本軍慰安婦問題に対して持続的な研究活動を遂行し続けて来たが、その最初の報告書である 1996 年 1 月 4 日付「クマラスワミ報告書」では、第2次大戦時強制連行された日本軍慰安婦に関する日本国の人権侵害は、明確に国際法違反という点を確認し、日本国に対して国家次元の損害賠償、責任者の処罰、政府保管中のすべての資料の公開、書面を通した公式謝罪、教科書改正等を勧告する6項目の勧告案を提示し、1996 年 4 月 19 日、 第 52 次国連人権委員会で上の報告書の採択決議があった。
また 1998 年 8 月 12 日、 国連人権小委員会(差別防止少数者保護小委員会)では、上のクマラスワミ報告書の内容を補強した、特別報告官ゲイ・マクドガルの日本政府の法的賠償責任、責任者処罰を骨子とする報告書が発表され、採択された。

上の「マクドガル報告書」では
① 慰安婦制度が性奴隷制だということを明らかにし、慰安所を強姦センター(rape center、rape camp)と規定して、強制性を浮き彫りにし、
② 日本の責任者処罰問題を強調して、生存戦犯の捜査を主張し、
③ 国連事務総長は、日本政府から少なくとも年2回以上進行事項の報告を受け、国連人権委員会高等弁務官は日本政府と協力して責任者の処罰及び適切な賠償のためのパネルを構成する等、国連の積極的な介入を要求し、
④ 生存者が高齢な点を考慮し、緊急で速かに日本政府の賠償がなされるべき、という点が強調された。

(10)以後、小泉、安倍政権等、日本の保守右傾化によって、日本軍慰安婦問題を教科書から削除し、河野談話まで修正しようとする動きが起こると、下に見るように個々の国家からも、これに対して断固たる対処が始まった。
米国下院は 2007 年 7 月 30 日、 満場一致で日本軍慰安婦決議案を採択したが、その主要内容は、
① 日本政府は 1930 年代から第2次世界大戦終戦に至るまで、アジア諸国家と太平洋諸島を植民地化し、戦時に占領する過程で、日本帝国主義の軍隊が強制的に若い女性を、慰安婦として知られる性の奴隷に作りあげた事実を、確実ではっきりとした態度で公式に認定し謝罪して、歴史的責任を負わなければならない。
② 日本政府は日本軍が慰安婦を、性の奴隷にして人身売買をした事実がないという、いかなる主張に対しても、はっきりと公開的に反駁しなければならない。
③ 日本政府は国際社会が提示した慰安婦勧告に従い、現世代と未来世代を対象に、おぞましい犯罪に関する教育をしなければならない、等である。
その後オランダ下院(2007 年 11 月 8 日)、カナダ連邦議会下院(2007 年 11 月 28日)、ヨーロッパ議会(2007 年 12 月 13 日)が、20 万人以上の女性を慰安婦に強制動員して犯した蛮行に関する、日本政府の公式謝罪と歴史的・法的責任の認定、被害者に関する補償、慰安婦強制動員の事実を現在と未来の世代に教育すること等を含む決議案を、次々と採択した。

(11)国連人権理事会は 2008 年 6 月 12 日、 日本の人権状況定期検討を通じて、日本軍慰安婦問題に対する各国の勧告と質疑を盛り込んだ実務グループ報告書を正式に採択し、国連B規約人権委員会は 2008 年 10 月 30 日、ジュネーブで、日本の人権と関連した実務報告書を発表し、日本政府に対して初めて日本軍慰安婦問題の法的責任を認定し、被害者多数が受け入れられる形態で謝罪することを勧告した。
(12)韓国でも、2008 年 10 月 27 日、日本軍慰安婦被害者名誉回復のための公式謝罪及び賠償を促す決議案が、全議員 261 人の内 260 人の賛成で国会本会議を通過し、2009年 7 月、大邱広域市議会を皮切りに 2011 年 3 月 現在、46 に達する全国の基礎(訳者註:日本の市町村に相当 註:日本の市町村に相当)・広域議会で日本軍慰安婦問題解決を促す決議を採択した。
また、大韓国弁護士協会と日本弁護士協会(訳者註:日本弁護士連合会) (訳者註:日本弁護士連合会) (訳者註:日本弁護士連合会)は、2010年 12 月 11 日、日本軍慰安婦問題に対し、
① この事件の協定の完全最終解決条項の内容と範囲に関する、両国政府の一貫性のない解釈・対応が、被害者たちの正当な権利救済を阻み、被害者たちの不信感を助長して来たことを確認し、
② 謝罪及び金銭補償を含む日本軍慰安婦問題の解決のための立法が、日本政府及び国会によって迅速に成立しなければならないことを確認する
内容の共同声明を発表した。
その諸決議及び声明は、ひとりの被害者でもまだ生きている時、日本政府が立法を通して問題を解決することを促しており、韓国政府にもより積極的な外交政策を取ること等を要求している。

 

4.適法要件に対する判断

ア.行政不作為に関する憲法訴願
行政権力の不作為に対する憲法訴願は、公権力の主体に、憲法から由来する作為義務が特別に、具体的に規定されており、これに基づいて基本権の主体が行政行為ないし公権力の行使を請求できにもかかわらず、公権力の主体がその義務を怠る場合にだけ許容される(憲法裁判所2000. 3.30. 98憲マ206, 判例集12-1, 393, 393-393)。
上で言う「公権力の主体に、憲法から由来する作為義務が特別に、具体的に規定されており」が意味するところは、
第一に、憲法上明文で公権力主体の作為義務が規定されている場合
第二に、憲法の解釈上、公権力主体の作為義務が導き出される場合
第三に、公権力主体の作為義務が法令で具体的に規定されている場合
等を包括していると見ることができる(憲裁2004.10.28. 2003憲マ898, 判例集16-2下,212, 219)。
イ.被請求人の作為義務
もし、公権力の主体に、上のような作為義務がなければ、憲法訴願は不適法になるので、この事件で被請求人に、上のような作為義務が存在するかを検討する。
この事件の協定は、憲法によって締結・公布された条約として、憲法第6条第1項に従って国内法と同じ効力を有する。ところで、上の協定第3条第1項は、「この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする」、同条第2項は、「1の規定により解決することができなかった紛争は、いずれか一方の締約国の政府が他方の締約国の政府から紛争の仲裁を要請する公文を受領した日から30日の期間内に各締約国政府が任命する一人の仲裁委員と、こうして選定された二人の仲裁委員が当該期間の後の30日の期間内に合意する第三の仲裁委員または当該期間内にその二人の仲裁委員が合意する第三国の政府が指名する第三の仲裁委員との三人の仲裁委員からなる仲裁委員会に決定のため回付するものとする」 と、それぞれ規定している。

上の紛争解決条項によれば、この事件の協定の解釈に関して、韓国と日本間に紛争が発生した場合、政府はこれに従い、一次的には外交上の経路を通して、二次的には仲裁によって解決するように述べているが、これが前で見た「公権力主体の作為義務が法令に具体的に規定されている場合」に該当するかを見る。

請求人らは、日帝によって強制的に動員され性的虐待を受け、慰安婦としての生活を強要された「日本軍慰安婦被害者」として、日本国に対して、それに因る損害賠償を請求したが、日本国はこの事件の協定によって、賠償請求が すべて消滅したとし、請求人らに対する賠償を拒否している反面、韓国政府は前に見たところのように、請求人らの上の賠償請求権は、この事件の協定によって解決したのではなく、まだ存続するという立場なので、結局、この事件の協定の解釈に関して、韓・日間に紛争が発生した状態である。

韓国憲法は、第10条で「 すべての国民は、人間としての尊厳及び価値を有し、幸福を追求する権利を有する。国家は、個人の有する不可侵の基本的人権を確認し、これを保障する義務を負う」と規定しているが、それゆえに人間の尊厳性は最高の憲法的価値であり、国家目標の規範として すべての国家機関を拘束し、よって国家は人間の尊厳性を実現すべき義務と課題を負わされていることを意味する。従って人間の尊厳性は、「国家権力の限界」として、国家による侵害から保護されるべき個人の防御権であるのみならず、「国家権力の課題」として、国民が第三者によって人間の尊厳性を脅かされる時、国家はこれを保護する義務を負う。

また、憲法第2条第2項は、「国家は法律が定めるところにより、在外国民を保護する義務を負う」と規定しているところ、このような在外国民保護義務に関して憲法裁判所は、「憲法第2条第2項で規定した在外国民を保護する国家の義務により、在外国民が居留国にいる間受ける保護は、条約その他の一般的に承認された国際法規と当該居留国の法令によって享受できる、あらゆる分野における正当な待遇を受けられるよう、居留国との関係において国家が行う外交的保護と、国外居住国民に対する政治的な考慮から、特別に法律で定めて施す法律・文化・教育、その他の諸々の領域での支援を意味するものである」と判示することにより(憲法裁判所1993.12.23. 89憲マ189, 判例集5-2,646)、国家の在外国民に関する保護義務が、憲法から導き出されるものであることを認定したことがある。

一方、韓国憲法は、前文で「3.1運動で建立された大韓民国臨時政府の法統」の継承を明らかにしているところ、たとえ韓国憲法が制定される前のことだとしても、国家が国民の安全と生命を保護すべき最も基本的な義務を遂行出来なかった日帝強制占領期に、日本軍慰安婦として強制動員され、人間の尊厳と価値が抹殺された状態で、長期間、悲劇的な人生を過ごした被害者たちの、毀損された人間の尊厳と価値を回復させるべき義務は、大韓民国臨時政府の法統を継承した今の政府が、国民に対して負う最も根本的な保護義務に属すと言えるであろう。

上のような憲法諸規定、及びこの事件の協定第3条の文言に照らしてみる時、被請求人が上の第3条に従って紛争解決の手続きに進む義務は、日本国によって強いられた組織的で持続的な不法行為により、人間の尊厳と価値を深刻に毀損された自国民らが、賠償請求件を実現できるように協力して保護すべき憲法的要請によるもので、その義務の履行がなければ請求人らの基本権が重大に侵害される可能性があるので、被請求人の作為義務は憲法から由来する作為義務として、それが法令に具体的に規定されている場合と言える。

さらに、特に、韓国政府が直接、日本軍慰安婦被害者たちの基本権を侵害する行為をしたのではないが、上の被害者たちの日本国に対する賠償請求権の実現、及び人間としての尊厳と価値の回復において、現在の障害状態がもたらされたことは、韓国政府が請求権の内容を明確にせず、「 すべての請求権」という包括的な概念を使って、この事件の協定を締結したことにも責任があるという点に注目するなら、被請求人にその障害状態を除去する行為に進むべき、具体的な義務があることを否認するのは難しい。

ウ.公権力の不行使

被請求人は、韓国政府がまず「外交上の経路」を通して紛争を解決するとしながらも、様々な外交上の方式の内、日本政府に対する金銭的賠償責任は問わない代わりに、韓国政府が慰安婦被害者たちに対し、経済的支援及び補償をする一方、日本政府に対してはより重要で根本的問題である、徹底した真相の究明、公式謝罪と反省、正しい歴史教育の実施等を持続的に要求し、国際社会から慰安婦に関する問題を持続的に提起する方式を選択したが、これは韓国政府に幅広く認定される外交的裁量権を正当に行使したものであり、この事件の協定第3条第1項の「外交上の経路」を通した紛争解決措置に当然含まれるものなので、公権力の不行使ではないと主張する。

しかし、この事件で問題になる公権力の不行使は、この事件の協定によって日本軍慰安婦被害者たちの日本に対する賠償請求権が消滅したか否かに関する、解釈上の紛争を解決するために、この事件の協定第3条の紛争解決手続きに進む義務の不履行を示すものなので、日本国に対する上の被害者たちの賠償請求権問題を度外視した外交的措置は、この事件の作為義務の履行に含まれない。また、請求人らの人間としての尊厳と価値を回復するという観点から見た時、加害者である日本国が誤ちを認定し法的責任を負うことと、韓国政府が慰安婦被害者たちに社会保障的次元の金銭を提供することは まったく違う次元の問題なので、韓国政府が被害者たちに一部生活支援等をしているからと言って、上の作為義務の履行と見ることはできない。

被請求人の主張によるとしても、韓国政府は、1990年代から日本政府に対して金銭的な賠償責任は問わないという方針を定めたし、韓・日協定関連文書の全面公開がなされた後にも2006年 4月10日、「日本側と消耗的な法的論争に発展する可能性が大きいので、これと関連して日本政府を相手に問題解決のための措置をしない」と関連団体へ回答したことがあり、この事件の請求が起こされた後に提出した書面でも、この事件の協定の解釈と関連した紛争に対しては何の措置も取らないという意思を、繰り返し表明したことがある。

一方、韓国政府は前に見たように、2005年 8月26日、「民官共同委員会」の決定を通じて、日本軍慰安婦問題はこの事件の協定によって解決したと見られないと宣言したことがあるが、これがこの事件の協定第3条の外交上の経路を通した紛争解決措置に該当すると見るのは難しく、仮に該当すると見たとしても、このような紛争解決の努力は持続的に推進されなければならず、これ以上外交上の経路を通して紛争を解決できる方法がないのなら、この事件の協定第3条に従って仲裁回付手続きに進まなければならないのに、被請求人は2008年以後日本軍慰安婦問題を直接的に言及しないだけでなく、これを解決するための、特に他の計画もないというのだから、どこから見ても作為義務を履行したとは言えない。


エ.小結
そうならば、被請求人は、憲法から由来する作為義務があるのに、これを履行せず、請求人らの基本権を侵害した可能性がある。
従って、以下では本案に進んで、被請求人が上のような作為義務の履行を拒否、または怠っていることが、請求人らの基本権を侵害し、違憲であるか否かに関して検討することにする。

 

5.本案に関する判断

ア.この事件の協定関連の解釈上紛争の存在

(1)この事件の協定第2条第1項は、「両締約国は、両締約国およびその国民(法人を含む)の財産、権利および利益並びに両締約国およびその国民の間の請求権に関する問題が、1951 年 9 月 8 日にサンフランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と規定している。これと関連して合意議事録第2条(g)項は、上の第2条第1項でいう「完全かつ最終的に解決されたこととなる両国およびその国民の財産、権利および利益並びに両国およびその国民の間の請求権に関する問題には、韓・日会談において韓国側から提出された『韓国の対日請求要綱』(いわゆる 8 項目)の範囲に属するすべての請求が含まれており、したがって、同対日請求要綱に関しては、いかなる主張もなしえないこととなることが確認された」と記載されている。

 

(2)この事件の協定第2条第1項の解釈と関連し、前にみたように日本政府及び司法府の立場は、日本軍慰安婦被害者を含む韓国国民の日本国に対する賠償請求権は、 すべて包括的にこの事件の協定に含まれ、この事件の協定の締結及びその履行で放棄されたか、その賠償が終了したというもので、反面、韓国政府は 2005 年 8 月 26 日、「民官共同委員会」の決定を通じて、日本軍慰安婦問題等のように日本政府等国家権力が関与した「反人道的不法行為」に対しては、この事件協定によって解決したと見られないので、日本政府の法的責任が認定されるという立場を表明したことがある。

 

(3)被請求人は、この事件の憲法訴願審判過程でも、日本はこの事件の協定により日本軍慰安婦被害者の日本国に関する賠償請求権が消滅したという立場である反面、韓国政府の立場は日本軍慰安婦被害者の賠償請求権はこの事件の協定に含まれていないというもので、これに対しては両国の立場に差異があり、これはこの事件の協定第3条の「紛争」に該当すると、繰り返し確認した。

また、この事件の弁論後提出した 2009 日 6 月 19 日付の参考書面でも、「韓国政府がまず『外交上の経路』を通して紛争を解決するとし、様々な外交上の方式の内…(訳者註:ママ)方式を選択したことは、韓国政府に幅広く認定される裁量権を正当に行使 者註:ママ)したもので、これもまたこの事件の協定第3条第1項の『外交上の経路』を通した紛争解決措置に当然含まれるもの」として、この事件の協定の解釈上の紛争が存在することを前提に、主張を展開した。

(4)従って、この事件の協定第2条第1項の対日請求権に、日本軍慰安婦被害者の賠償請求権が含まれるか否かに関する韓・日両国間の解釈の差異が存在し、それが上の協定第3条の「紛争」に該当するのは明白である。

 

イ.紛争解決の手続き
この事件の協定第3条第1項は、「この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする」と規定し、第2項は第1項の規定によって解決できない紛争は、仲裁によって解決するように規定している。即ち、上の諸規定は協定締結当時、その解釈に関する紛争の発生を予想し、その解決の主体を協定締結当事者である各国家に定めながら、紛争解決の原則及び手続きを定めたものである。

そうならば被請求人は、上の紛争が発生した以上、協定第3条による紛争解決手続きに従って、外交的経路を通して解決しなければならず、そのような解決の努力が尽きた場合、これを仲裁に回付しなければならないのが原則である。

従って、このような紛争解決手続きに進まなかった被請求人の不作為が、請求人らの基本権を侵害して違憲であるか否かを検討することにする。

ウ.被請求人の不作為の基本権侵害 作為の基本権侵害 作為の基本権侵害の可否

(1)先例との区別
憲法裁判所は、この事件の協定第3条第2項に従って仲裁要請をしなかった不作為が、違憲であると主張した事件(憲法裁判所 2000.3.30. 98 憲マ 206 仲裁要請不履行違憲確認事件)で、「この事件の協定第3条の形式と内容から見ても、外交的問題の特性から見ても、協定の解釈及び実施に関する紛争を解決するために、外交上の経路を通すか、でなければ仲裁に回付するかに関する韓国政府の裁量範囲は相当広いものと見るしかなく、従ってこの事件の協定当事者である両国間の外交的交渉が長期間効果を得られずにいるとして、在日韓国人の被徴用負傷者及びその遺族である請求人らとの関係において、政府が必ず仲裁に回付しなければならない義務を負わせられていると見るのは難しく、同様に請求人らに仲裁回付をしてくれと韓国政府に請求できる権利が生じると見ることも難しく、国家の在外国民保護義務(憲法第2条第2項)や個人の基本的人権に関する保護義務(憲法第 10 条)によったとしても、依然としてこの事件の協定の解釈及び実施に関する韓・日両国間の紛争を、仲裁という特定手段に回付して解決しなければならない政府の具体的作為義務と、請求人らのこれを請求できる権利は認定できない」と判示したことがある。

上の決定は被請求人が、この事件の協定第3条第2項の「仲裁回付による紛争解決」方法を取る義務があるのかに関するもので、第3条第1項で優先的に外交上の通路(訳者註:協定文は「経路 者註:協定文は「経路」)を通じた問題解決を模索するようにしているにもかかわらず、これを差し置いて第3条第2項の「仲裁回付方式による紛争解決」を図る被請求人の義務を、直ちに導き出せるかが問題になった。

しかし、この事件での争点は、被請求人がこの事件の協定第3条第1項、第2項による紛争解決に進むべき義務を負っているのかという点であり、特に第3条第1項では特定方式でない広範囲な外交上の経路を通した解決を規定しているので、この事件の協定の解釈に関する韓・日両国間の紛争が発生した現時点で、被請求人がこの事件の協定の解釈に関する紛争を解決するために、優先的に外交上の経路を通して解決を模索し、外交上の経路を通して解決をできない場合、仲裁回付に進むべき憲法的作為義務があるか否かである。

即ち、この事件の争点は、被請求人がこの事件の協定の解釈に関する紛争を解決するための多様な方法の内、「特定方法を取るべき作為義務」があるか否かではなく、「この事件の協定の解釈に関する紛争を解決するために、上の協定の規定に従った外交行為等をなすべき作為義務」があるか否かなので、上の先例の事案とは区別されると言うことだ。

(2)被請求人の裁量
外交行為は、価値と法律を共有する、一つの国家内に存在する国家と国民との関係を越えて、価値と法律を互いに異にする国際環境において国家と国家間の関係を扱うものなので、政府が紛争の状況と性質、国内外の情勢、国際法と普遍的に通用する慣行等を勘案して、政策決定をすることにおいて、幅広い裁量が許容される領域であることは否認できない。

しかし、憲法上の基本権は すべての国家権力を覊束するので、行政権力もやはり、このような基本権の保護義務に従って、基本権が実効的に保障されうるよう行使されなければならず、外交行為という領域も司法審査の対象から、完全に排除されると見ることはできない。特定国民の基本権が関連する外交行為において、前にみたことのように、法令で規定された具体的作為義務の不履行が、憲法上の基本権保護義務に対する明白な違反と判断される場合には、基本権侵害行為として違憲と宣言されなければならない。

結局、被請求人の裁量は、侵害される基本権の重大性、基本権侵害危険の切迫性、基本権の救済可能性、真正な国益に反するか否か等を総合的に考慮し、国家機関の基本権覊束性に当てはまる範囲内に制限されざるを得ない。


(3)不作為に因る基本権侵害の可否
(ア)侵害される基本権の重大性
日本軍慰安婦の被害は、日本国と日本軍によって強制的に動員され、その監視の下、日本軍の性奴隷を強要されたことに起因するもので、他にその例を発見することができない特殊な被害である。

日本軍慰安婦被害の特殊性は、国際社会は勿論だが、日本の裁判所によっても確認された。1994 年 9 月 2 日に公表された国連の NGO 国際法律家委員会の報告書と、1996 年2 月 6 日に公表された国連人権委員会「女性に関する暴力特別報告者」クマラスワミの報告書は、これを「軍事的性奴隷」と定義した。1998 年 8 月 12 日に 公表された国連人権小委員会の「戦時性奴隷制特別報告者」ゲイ・マクドガルの報告書は、日本軍慰安婦を強要した行為は「人道に関する罪」に該当する犯罪行為と断言した。2007 年 7 月、米国下院が採択した日本軍慰安婦決議案も、日本軍慰安婦を「日本政府による強制軍隊売春制度であり、残虐性と規模面から 20 世紀最大の人身売買犯罪」と規定した。そして 1998 年 4 月 27 日、 日本軍慰安婦問題に関する立法不作為責任を認定し、損害賠償を命じた日本の山口地方裁判所下関支部判決は、その被害を「徹底した女性差別・民族差別思想の表現であり、女性の人格の尊厳を根底から侵害し、民族の矜持を蹂躙するもの」と判断した。

日本国によって広範囲に恣行された反人道的犯罪行為に対して、日本軍慰安婦被害者らが日本国に対して有する賠償請求権は、憲法上保障される財産権であるのみならず、その賠償請求権の実現は、無慈悲に持続的に侵害された人間としての尊厳と価値、及び身体の自由を事後回復するという意味を有するものなので、その賠償請求権の実現を遮るのは憲法上の財産権問題に局限されず、根源的な人間としての尊厳と価価値の侵害と直接関連がある(憲法裁判所 2008. 7.31. 2004 憲パ 81, 判例集 20-2 上、91,100-101 参照)。


(イ)基本権侵害救済の切迫性
1991 年頃から最近まで、日本軍慰安婦被害者たちが日本の法廷で進行して来た3度の訴訟は、日本軍慰安婦被害者たちの賠償請求権が、この事件の協定によって消滅した等の理由で敗訴が確定した。

今や、日本の法廷を通した日本軍慰安婦被害者の司法的救済、若しくは日本政府の自発的謝罪及び救済措置を期待することは、事実上不可能になった。日本により軍隊性奴隷に追い込まれた第2次世界大戦が終わってから 60 年が遥かに過ぎ、被害者が日本を相手に訴訟を始めてからも 20 年余りが流れた。

一方、2006 年 3 月 13 日を基準として「日帝下日本軍慰安婦に関する生活安定支援法」の適用対象者 225 人の内、生存者は 125 人だったが、この事件の審判請求審理中にも相次いで死亡し、2011 年 3 月現在、政府に登録された日本軍慰安婦被害生存者は 75 人に過ぎず、この事件の請求人は本来 109 人だったのに、その間に 45 人が死亡し、64 人が生存しているのみである。さらに現在、生存している日本軍慰安婦被害者たちも皆高齢なので、これ以上時間を遅滞させた場合、日本軍慰安婦被害者の賠償請求権を実現することで歴史的正義を確立し、侵害された人間の尊厳と価値を回復することは、永遠に不可能になるかも知れない。

(ウ)基本権の救済可能性

被請求人は、仲裁回付手続きに進んだ場合の結果の不確実性等を考慮して、韓国政府が日本軍慰安婦被害者たちに対して経済的支援及び補償をする代わりに、日本国に金銭的な賠償責任を問わないことにしたと主張する。

侵害される基本権が重大で、その侵害の危険が差し迫っていると言っても、救済の可能性がまったくないとしたら、被請求人の作為義務を認定するのは難しいだろう。しかし、救済が完璧に保障された場合にだけ作為義務が認定されるのではなく、救済の可能性が存在することで足りるだろうし、この時、被害者たちが日本政府に対する賠償請求が、最終的に否認される結論が出る危険性も敢えて甘受するつもりであると言うのであれば、被請求人としては被害者たちの意思を充分考慮しなければならない。

2006 年国連国際法委員会によって採択され、総会へ提出された「外交的保護に関する条文草案」の第 19 条でも、外交的保護を行使する権利を有する国家は、重大な被害が発生した場合、特に外交的保護の行使の可能性を適切に考慮しなければならず、可能なすべての場合において、外交的保護への訴え及び請求される賠償に関する被害者たちの見解を考慮しなければならないことを、勧告的慣行として明示している。

ところで請求人らはこの事件の審判請求を通じて、被請求人の作為義務の履行を求めているので、被害者である請求人らの意思は明確であると言えるし、前で検討したこの事件の協定の締結経緯及びその前後の状況、女性に関する類例のない人権侵害に驚愕しながら、日本に対して公式的事実認定と謝罪、賠償を促している一連の国内外の動きを総合して見た時、被請求人がこの事件の協定第3条に従って紛争解決の手続きに進む場合、日本国による賠償がなされうるという可能性を、予め排除してはならない。

 

(エ)真に重要な国益に反するか否か
被請求人はこの事件の協定第3条による紛争解決措置を取りながら、日本政府の金銭賠償責任を主張する場合、日本側との消耗的な法的論争や、外交関係の不便を招来する怖れがあるという理由を掲げて、請求人が主張する具体的作為義務の履行をするのは難しいと主張する。しかし、国際情勢に関する理解に基づいた戦略的選択が要求される外交行為の特性を考慮するとしても、「消耗的な法的論争への発展の可能性」、若しくは「外交関係の不便」という非常に不明確で抽象的な事由を掲げ、それが基本権侵害の重大な危険に直面した請求人らに関する救済を無視する妥当な事由になるとか、若しくは真摯に考慮されるべき国益とみるのは難しい。

むしろ、過去の歴史的事実の認識の共有に向けた努力を通じて、日本政府をして、被害者に対する法的責任を果たさせることをもって、韓・日両国及び両国民の相互理解と相互信頼を深めさせ、これを歴史的教訓として、二度とこのような悲劇的状況が起きないようにすることが、真なる韓・日関係の未来を築く方向であると同時に、真に重要な国益に合致することと言えるだろう。


(オ)小結
被請求人のこの事件の不作為は、請求人らの重大な憲法上の基本権を侵害していると言える。


エ.小結論
憲法第10条、第2条第2項及び前文と、この事件の協定第3条の文言等に照らして見るとき、被請求人がこの事件の協定第3条に従って、紛争解決の手続きに進むべき義務は、憲法から由来する作為義務として、それが法令に具体的に規定されている場合と言えるし、請求人らの人間としての尊厳と価値及び財産権等、基本権の重大な侵害の可能性、救済の切迫性と可能性等を広く考慮する時、被請求人にこのような作為義務を履行しない裁量があるとは言えず、被請求人が現在までこの事件の協定3条に従って、紛争解決手続きを履行する作為義務を履行したと見ることはできない。

結局、被請求人のこのような不作為は憲法に違反し、請求人らの基本権を侵害するものである。


6.結論

そうだとすれば、この事件の審判請求は理由があるので、これを認容することにし、下記7.の通り、裁判官チョ・デヒョンの認容補充意見、下記8.の通り、裁判官李ガングク、裁判官閔ヒョンギ、裁判官李ドンフプの反対意見を除外した、残りの関与裁判官全員の一致した意見として、主文のように決定する。

7.裁判官チョ・デヒョン チョ・デヒョン チョ・デヒョンの認容補充意見

請求人らは日帝により強制動員され、日本軍慰安婦生活を強要された被害者として、日本国に対して損害賠償請求権を有するが、韓・日請求権協約によってそのような損害賠償請求権を行使するのは難しくなったと主張する。そのような損害賠償請求権の存否と範囲が、法院(訳者註:裁判所)の裁判手続きによって確定されなかったという理由で、請求人らの損害賠償請求権の侵害を主張する憲法訴願審判を拒否することはできない。


国家は日本軍慰安婦が日本国に対して有する損害賠償請求権を確認し、基本権として保障しなければならない(憲法第10条後文)。そうにもかかわらず、大韓民国政府は1965年 6月22日、韓日請求権協定を締結し、日本国から3億ドルを無償で受け取り、両国及びその国民間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたことを確認し、そのような請求権に関して、いかなる主張もできないこととすると約定した。

そして、日本国の裁判所は、このような韓日請求権協定により、請求人らは日本国に、日本軍慰安婦に関する損害賠償を請求できないと判断している。


このような協定によって、請求人らの日本国に対する損害賠償請求権が消滅したかどうかの可否については、見解が分かれている。万一、韓日請求権協定が、請求人らの日本国に対する損害賠償請求権を消滅させるのならば、請求人らの財産権を保障する義務を負う国家が、請求人らの財産権を消滅させる条約を締結したことになる。そして、韓日請求権協定が、請求人らの日本国に対する損害賠償請求権を消滅させるものではないとしても、請求人らは、日本国に対する損害賠償請求権を行使することが、韓日請求権協定によって阻止されている。したがって、大韓民国は、請求人らの日本国に関する損害賠償請求権行使が、韓日請求権協定によって妨害される違憲的な事態を解消させるために、韓日請求権協定第3条に従って日本国を相手に、外交的交渉や仲裁手続きを推進する義務を負うと見るのが妥当である。


そして、このように大韓民国が日本国と締結した韓日請求権協定が、請求人らの日本国に対する損害賠償請求権の行使を遮っている以上、そのような条約は請求人の基本権を侵害すると見ることもできるが、日本国の植民地統治に因って、大韓民国の国民が日本国に対して有する請求権を一括的に妥結するために、大韓民国政府が日本国から3億ドルを受け取って、国民の日本国に対する請求権を代わりに補償しようとしたものと理解するならば、そのような条約が憲法第37条第2項に違反すると断定するのも難しい。

ただし、そのように善意に理解しても、大韓民国政府は韓日請求権協定を締結して、日本国から無償資金3億ドルを受け取り、国民らが日本国に対して損害賠償請求権を行使できないように協定することで、日本国に対して損害賠償請求権を行使できなくなった国民らに対して、その損害を補償する義務を負うと見ざるをえない。

大韓民国は日本国から無償資金3億ドルを受けた後、1966年 2月19日、「請求権資金の運用及び管理に関する法律」を制定したが、被徴用死亡者の補償をしただけで、請求人らのような日本軍慰安婦は補償の対象に含まれなかった。そして、1993年 6月11日、「日帝下日本軍慰安婦に関する生活安定支援法」を制定し、日本軍慰安婦に生活安定支援のための一時金と、毎月の支援金を支給し、賃貸住宅への優先賃貸、生計給付、医療給付、看護人等を支援して来たが、請求人らの日本国に対する損害賠償請求権をまともに満足させるほど、充分に補償したと見るのは難しい。

したがって、大韓民国は韓日請求権協定第3条に従って、日本国を相手に外交的交渉や仲裁手続きを推進し、韓日請求権協定の違憲性を除去する義務があるだけでなく、韓日請求権協定に因って、請求人らが日本国に対する損害賠償請求権を行使できなくなった損害を、完全に補償する責任を負うと宣言しなければならない。

そして、日本国を相手にした外交的交渉や仲裁手続きによって、請求人らの日本国に対する損害賠償請求権行使の障害が解消される可能性は希薄で、請求人らにむなしい希望とそれがもたらす挫折と絶望の苦痛だけ抱かせる憂慮が大きいので、大韓民国が請求人らの日本国に対する損害賠償請求権を、完全に補償する義務があることを、より強調する必要がある。しかも、請求人らが皆高齢なので、請求人らに関する国家の補償措置は、至急実施される必要がある。

 

8.裁判官李ガングク、裁判官閔ヒョンギ、裁判官 裁判官李ガングク、裁判官閔ヒョンギ、裁判官李ドンフプの反対意見 ンフプの反対意見 ンフプの反対意見


私たちは、多数意見と異なり、韓国憲法上の明文規定や、いかなる憲法的法理によっても、「請求人らに対し、被申請人がこの事件の協定第3条で定めた紛争解決手続きに進むべき作為義務」があるとは言えず、請求人らのこの事件の憲法訴願は不適法と見るので、下記の通り反対意見を開陳する。

ア.憲法裁判所法 第 68 条第 1 項によると、公権力の行使だけでなく、公権力の不行使も憲法訴願の対象となりうるのだが、その公権力の不行使のせいで基本権の侵害を受けた者が、上の憲法訴願を提起する資格があるのだから、行政権力の不作為に対する憲法訴願は、公権力の主体に憲法から由来する作為義務が、特別に、具体的に規定され、これに依拠して、基本権の主体が行政行為ないし公権力の行使を請求できるにもかかわらず、公権力の主体がその義務を怠たる場合に限って許容される(憲法裁判所 1991.9.16. 89 憲マ 63, 判例集 3, 505, 513; 2000. 3.30. 98 憲マ 206, 判例集 12-1, 393, 401等参照)。

また、ここでいう「公権力の主体に憲法から由来する作為義務が、特別に、具体的に規定され」が意味するところが、憲法上明文で作為義務を規定していたり、憲法の解釈上作為義務が導き出されたり、法令に具体的に作為義務が規定されているの、3つの場合を包括していることも、やはり憲法裁判所で確立された判例である(憲裁 2004.10.28.2003 憲マ 898, 判例集 16-2 下、212, 219 参照)。

ところが、ここで留意すべきことは、憲法の明文規定上、憲法解釈上、法令上、導き出される公権力主体の具体的作為義務は、「基本権の主体である国民に対する」義務でなければならないということだ。そうであってこそ、「これに依拠して、基本権の主体が、行政行為ないし公権力の行使を請求できるにもかかわらず、公権力の主体がその義務を怠って憲法上保障された基本権を侵害された者」として、その侵害の原因となっている行政権力の不作為を対象に、憲法訴願を請求することができるからだ。

多数意見は、憲法第 10 条、第2条第2項、憲法前文中「3.1運動により建立された大韓民国臨時政府の法統を継承」するという部分と、この事件の協定第3条の文言を総合して、この事件被請求人の作為義務が「憲法から由来する作為義務として、それが法令に具体的に規定されている場合」に該当すると判断し、さらに被請求人が負う具体的作為義務の内容を、「この事件の協定第3条に従って、紛争解決の手続きに進む義務」と見なしたが、果たしてこのような解釈が妥当なのか、以下で具体的に検討する。

イ.まず、憲法第 10 条、第2条第2項、前文の規定自体、あるいはその解釈によって「憲法から由来する具体的作為義務」が認定されることはない。

国家と国民の権利と義務関係を規定した憲法の諸条項の中には、具体的で明確な意味で国民の基本権、その他の権利を付与する諸条項もあるが、開放的・抽象的・宣言的な文言で規定されており、憲法解釈や具体的法令等が媒介されてこそ、国家と国民間に拘束的な権利義務を発生させる諸条項もある。ところが「国民の不可侵の人権を確認し、これを保障する義務」を規定した憲法第 10 条、「法律が決めるところによって、在外国民を保護する義務」を規定した憲法第2条第2項は、後者の場合に該当するものであって、国家が国民に対し基本権の保障及び保護義務を負うという、国家の一般的・抽象的義務を規定しただけで、その条項自体から国民のための何らかの具体的な行為をなすべき国家の作為義務が導き出されるのではない。「3.1運動で建立された大韓民国臨時政府の法統を継承」するという、憲法前文の文言もまた同じだ。たとえ憲法前文が、国家的課題と国家的秩序形成に関する指導理念・指導原理を規定し、国家の基本的価値秩序に関する国民的合意を規範化したもので、最高規範性を有し、法令解釈と立法の指針になる規範的効力を有してはいるものの、それ自体から国家の国民に対する具体的な作為義務が生じることはない。

このように憲法第 10 条、第2条第2項、憲法前文から、国家の具体的作為義務と、そのような作為義務を請求できる国民の権利が導き出されないという点は、憲法裁判所の確立された判例でもある(憲法第 10 条、第2条第2項に関しては、憲裁 2000.3.30.98 憲マ 206, 判例集 12-1, 393, 402-403; 1998. 5.28. 97 憲マ 282, 判例集 10-1, 705,710, 憲法前文に関しては憲裁 2005.6.30. 2004 憲マ 859, 判例集 17-1, 1016, 1020-1021参照)。

従って、いくらこの事件の請求人らの基本権侵害状態が重大で切迫しているとしても、憲法第 10 条、第2条第2項、憲法前文だけに基づいては、請求人らに対し国家が何らかの行為をすべき具体的な作為義務を導き出すことはできず、結局、「具体的な作為義務が規定されている法令」が存在してこそ、これを媒介として国家の請求人らに対する具体的作為義務を認定しうるのであろう。

ウ.そうだとすれば、次に、この事件の協定第3条に規定された紛争解決手続きに関する条項が、上で述べる「法令に具体的に作為義務が規定されている」場合に該当し、「憲法から由来する作為義務」が導き出されるかに関して検討する。

(1)まず、法令に具体的に作為義務が規定されている場合での、「法令に規定された具体的作為義務」とは、「国家が国民に対し特定の作為義務を負う」という内容が、法令に記載された場合を意味すると見なければならない。なぜならば、行政権力の不作為に対する憲法訴願を請求するためには、規定された作為義務に依拠して、「基本権の主体が、行政行為ないし公権力の行使を請求できるにもかかわらず、公権力の主体がその義務を怠っている場合」に限って許容されるものなので(憲裁 2000.3.30. 98 憲マ 206,判例集 12-1, 393)、法令に規定される具体的作為義務は、「基本権の主体である国民に、国家に対して特定の作為義務の履行を要求できる権利を付与する内容」でなければならないからだ。これは国家が、上のような具体的作為義務を履行しないことに因って、基本権を侵害されたと主張する憲法訴願において、基本権侵害の可能性ないし因果関係を認定するためにも、当然要求される前提と言えよう。

基本的に国会が制定する法律や、国民に対し拘束力を有する行政法規に、具体的な権利を国民に付与する内容があるのなら、これは「法令に具体的に作為義務が規定された場合」に該当すると見ることができる。現在まで、憲法裁判所に提起された行政権力の不作為に対する憲法訴願審判は、ほとんどすべてが国内法令に国家の請求人に対する具体的な作為義務が規定されているのか、その義務に対する不作為があるのかが、争点の諸事件だったし、該当法令に、問題になった具体的作為義務が、行政権力の国民に対する羈束行為として規定されていたり、裁量行為として規定されているが公権力不行使の結果、請求人に対する基本権侵害の程度が顕著だ等の事由から、羈束行為として解釈しなければならない場合には、具体的作為義務が認定されたし(前者に関しては、憲裁1998.7.16. 96憲マ 246, 判例集 10-2, 283; 2004.5.27. 2003憲マ851, 判例集 16-1, 699,後者に関しては、憲裁 1995.7.21.94 憲マ 136, 判例集 7-2, 169 参照)、反対に純粋な行政庁の裁量行為として規定されている場合には、請求人に対する具体的作為義務が認定されないと判示することもした(憲裁 2005.6.30. 2004 憲マ 859, 判例集 171)。

だが、この事件の協定のような条約、その他の外交文書で、締約国が互いにこれこれの方式で紛争を解決しようという内容と手続きが規定されているなら、これは基本的に締約国当事者の間で、締約の相手方に対して(訳者追加:「責任を」?)負うことを前提に用意されたものなので、一定の義務事項が記載されていたとしても、締約国当事者が相手方国家に対して要求できるだけである。従って、「条約を根拠として、自国が相手方国家に対し取りうる条約上の権利義務を履行せよ」と、自国政府に要求できるためには、「そういう要求ができる権利を自国国民に付与する内容」の具体的文言が、該当条約に記載されていなければならないだろう。条約に、そのような内容の明示的文言がない以上、該当条約が国民の権利関係を対象にするという理由だけで、条約上定められた手続き上の措置を取ることを、自国政府に要求する権利は発生しないと見なければならない。

この事件の協定は、両国間、あるいは一国政府と他国国民間、両国国民相互間の、「財産、権利、利益、請求権」に関する問題を対象にしたが(この事件の協定第2条第1項)、この事件の請求人らのような慰安婦被害者たちに対する、日本国の賠償責任問題は、上の協定の対象に含まれていたか否かが明らかでないほど、一般的で、抽象的な文言で記載していて、その結果、実際に両国間の立場の差異に因って、請求人らの権利問題に関して、この事件の協定の解釈及び実施に関して、「紛争」が発生した状態だとは見ることができる。だが、さらに、この事件の協定で、関連国の国民にこの事件の協定第3条上の紛争解決手続きに進むことを要求できる権利を付与していない以上、請求人らの基本権が関連しているという理由だけでは、上の条約上、紛争解決手続きを履行せよと、自国政府に対して要求する具体的権利は認定できないと言えるだろう。

従って、この事件の協定内容に基づいて、多数意見が認定したことのような、国家の具体的作為義務を導き出すことはできない。この事件の協定第3条の紛争解決手続きに進めと、自国政府に対し要求できる権利を該当国の国民に付与する内容の文言が、この事件の協定のどこにも規定されていないからだ。だからと言って、憲法第 10 条、第2条第2項、憲法前文により、上の通り、具体的作為義務が直接認定されてもいないので、結局、この事件の協定と上の憲法規定を総合しても、この事件の請求人らに対する国家の具体的作為義務は導き出されない。
(2)次に、この事件の協定第3条が規定している内容自体に照らしてみる時、多数意見が言う「この事件の協定の解釈に関する紛争を解決するために、第3条の規定に従った外交行為をする作為義務」というものが、「具体的な」行為をしなければならない「義務」だと見ることもできない。

(ア)この事件の協定第3条は、「この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする」(第1項)、「1の規定により解決することができなかつた紛争は、いずれか一方の締約国の政府が他方の締約国の政府から紛争の仲裁を要請する公文を受領した日から……からなる仲裁委員会に決定のため回付する」(第2項)と規定している。どの条項にも、紛争があれば「必ず」、外交的解決手続きに進まなければならいとか、外交的解決が膠着状態に陥る場合「必ず」仲裁手続きを申請しなければならないという、「義務的」内容は記載されていない。「外交上の経路を通して解決する」という文言は、外交的に解決しようという両締約国の間の外交的約束以上を意味するものだと解釈することはできない。「仲裁委員会に決定のため回付する」ということも、やはり「仲裁を要請する公文が受領されれば」回付されるわけだが、どの文言にも仲裁を要請しなければならないという、「義務的」要素が入っていると解釈するほどの根拠は発見できない。結局、第3条第1項、第2項のどこからも、外交上の解決手続きに進まなければならない「義務」、外交上の解決が出来なければ仲裁手続きに進まなければならない「義務」があるとの解釈を導くことはできない。

ところが多数意見は、このような解釈上の疑問点に対しては何の言及もなく、侵害される請求人らの基本権の重大性、基本権侵害救済の切迫性だけを根拠として、「被請求人に、このような作為義務を履行しない裁量があるということはできず」と判示しているが、国家間条約に記載された義務性さえない文言を、それに因って事実上影響を受ける国民が切迫した事情に置かれているという理由だけで、一方の締約国の政府である被請求人に対し、条約上の行為を強制することができる「義務」条項だと解釈してしまったことは、行き過ぎた論理の飛躍と言わざるを得ない。

 

むしろ、この事件の協定第3条に記載された紛争解決手続きに進む行為は、規定の形式と内容から見た時、両締約国の「裁量行為」と見ることが妥当と言うべきだろう。この事件の協定第3条を根拠に、在日韓国人被徴用負傷者たちの日本国に対する補償請求権に関する争いを、仲裁に回付すべき具体的な作為義務が国家にあると主張し、請求した憲法訴願事件で、憲法裁判所もまた、これを裁量行為と解釈したことがあり、その内容は以下の通りである。

 

『この事件の協定第3条は、この事件の協定の解釈及び実施に関する両国間の紛争は、まず外交上の経路を通して解決し、外交上の経路を通して解決できなかった紛争は、一方の締約国の政府が、相手国政府に仲裁を要請し、仲裁委員会の決定に従って解決するように規定しているが、「上の規定の形式と内容から見ても、外交的問題の特性から見ても、この事件の協定の解釈及び実施に関する紛争を解決するために、外交上の経路を通すべきか、でなければ仲裁に回付するべきかに関する、韓国政府の裁量範囲は相当広いと見る他なく」、従って、この事件の協定当事者である両国間の外交的交渉が、長期間効果が得られずにいるからといって、在日韓国人被徴用負傷者及びその遺族である請求人らとの関係から、政府が必ず仲裁に回付しなければならない義務を負うようになると見るのは難しく、同じ理由から、請求人らに仲裁回付をせよと、韓国政府に請求できる権利が生じると見るのも難しい』(憲裁 2000.3.30. 98 憲マ 206, 判例集 12-1,
393,402)。

 

多数意見は、上の先例は第3条第1項の「外交的解決義務」を差し置いて、第2項の「仲裁手続き回付義務」を履行しないことを根拠に憲法訴願を提起したものなので、「第3条全体に基づく紛争解決手続き履行義務」を問題と見なしているこの事件とでは、結論を異にすることができる、という前提から、上の先例とこの事件は区別されるとした。しかし、これは上の先例の趣旨を誤解したものだ。上の先例で、具体的な作為義務を認定しなかった主な根拠は、すでに見たように、この事件の協定第3条に基づく「外交的解決」や、「仲裁手続き回付」、 すべての「義務事項」ではなく、韓国の外交的「裁量事項」というところにあったと見るのが妥当であろう。

(イ)さらに、この事件の協定第3条が規定している「外交的解決」、「仲裁手続き回付」に、何らかの義務性があると見るとしても、それが「具体的な」作為を内容としているものと見るのも難しい。

「外交上の経路を通して解決する義務」とは、国家の基本権保障義務、在外国民の保護義務、伝統文化の継承・発展と民族文化の暢達に努力する国家の義務、身体障害者等の福祉向上のために努力すべき国家の義務、保健に関する国家の保護義務等と同様に、国家の一般的・抽象的な義務水準にしか過ぎない。このような国家の一般的・抽象的義務とは、それ自体が「具体的な」作為義務ではないので、たとえ憲法に明示的な文言として記載されていたとしても、国民が国家に対しその義務の履行を直接求めることができる「具体的な」作為義務に変貌しない。国民と国家の規範的関係を規律する根本規範である「憲法」に明示してあっても、これを根拠に国家に対してその義務の履行を求めることはできないのに、まして憲法より下位規範である「条約」に明示されているだけにもかかわらず、これを根拠に、条約の当事者でもない国民が、国家に対して義務の履行を求めることができる「具体的な」作為義務に変貌すると解釈することはできないのである。

 

また「外交的解決をする義務」とは、その履行の主体や方式、履行程度、履行の完結可否を判断できる、客観的判断基準を用意するのも大変で、その義務を不履行したのかどうかの事実確定が困難な、高度な政治行為の領域に該当するので、憲法裁判所の司法審査の対象になりはするものの、権力分立の原則上、司法の自制が要求される分野である。この事件の協定だけ見ても、国内の慰安婦被害者問題の深刻性と、これに反して、韓日間交流と協力を継続しなければならない韓日間の微妙な外交関係に照らしてみた時、どれほど外交的努力を尽せば履行したと言えるのか、この事件の協定が締結されてから現在まで 40 年余りが過ぎたが、初期に外交的解決努力をしたが現在は努力をしないでいるとか、請求人らが満足するだけの努力をしないでいるといって、外交的な解決義務の不履行になるのか、第2項の仲裁手続き回付義務は、それならばいつ頃発生すると見るべきか等、その履行の可否を判断する、いかなる明確な基準も発見できない。はたして、このような実質を持つ「外交上の義務」を、国民が国家に対しその履行を要求できる、「具体的な」作為義務と言えるのかということである。そして、履行内容が具体的なのかどうかは問わず、条約に記載されているという理由だけで、憲法裁判所が政府に漠然と「外交的努力をせよ」という義務を強制的に賦課させることは、憲法が政治的、外交的諸行為に関する政策判断、政策樹立及び執行に関する権限を担当している行政府に付与している、権力分立原則に反する素地もあるという点から、より一層問題にならざるを得ない。

 

エ.小結
したがって、憲法第 10 条、第2条第2項、憲法前文の規定、この事件の協定第3条に基づいては、この事件の請求人らに対し、国家がこの事件の協定第3条に定めた紛争解決手続きに進むべき具体的作為義務が発生するとは見られないので、被請求人が上の紛争解決手続きに進まないでいる不作為に因って、請求人らの基本権が侵害されたと主張する、この事件の憲法訴願審判請求は、不適法であり、却下されるべきである。

日本によって強制的に慰安婦として動員された後、人間としての人生を根こそぎ剥奪され、その加害者である日本国から人間的謝罪さえ得られないでいる、この事件の請求人らの切迫した心情を考えれば、大韓民国国民として誰もが共感せずにはおられず、何とかして韓国政府が国家的努力を尽くしてくれればという願いは、私たち皆が切実に思っている。だが憲法裁判所は基本的に、憲法と法律によって裁判をしなければならないので、裁判当事者が置かれている状況がいかに国家的に重大で、個人的に切迫しているとしても、憲法と法律の規定及びそれに関する憲法的法理を跳び越えることはできない。

この事件の請求人らが置かれている基本権救済の重要性、切迫性を解決できる法的手段を、憲法や法令、その他の憲法的法理によっても発見できないのなら、結局、彼女らの法的地位を解決する問題は、政治権力に任されているというしかなく、憲法と法律、憲法解釈の限界を越えてまで、憲法裁判所が被請求人にその問題の解決を強制することはできない。それが権力分立の原則上、憲法裁判所が守らなければならない憲法的限界なのである。

2011 年 8 月 30 日

裁判長 裁判官 李ガングク
裁判官 チョ・デヒョン、退任で署名捺印不能
裁判官 金ジョンデ
裁判官 閔ヒョンギ
裁判官 李ドンフプ
裁判官 睦ヨンジュン
裁判官 宋ドゥファン
裁判官 朴ハンチョル
裁判官 李ジョンミ
[別紙1]
請求人目録
訳者注
日本軍「慰安婦」被害者である 日本軍「慰安婦」被害者である 日本軍「慰安婦」被害者である64名の請求人の
名前、住民番号、住所(団体、事務所の住所)が記載されている 名前、住民番号、住所(団体、事務所の住所)が記載されている 記載されている。
[別紙2]
請求人代理人目録
1. 弁護士 車ジフン
2. 弁護士 韓テックン
3. 弁護士 金ジン
4. 法務法人チョンピョン 担当弁護士 沈ジェファン
5. 法務法人東西南北 担当弁護士 張ユシク
6. 法務法人ジャハヨン 担当弁護士 元ミンギョン
7. 法務法人 創造 担当弁護士 金ハグン
8. 法務法人ヘマル 担当弁護士 李ミンジョン
9. 法務法人トクス 担当弁護士 李ソクテ
10. 法務法人 トンファ 担当弁護士 チョ・ヨンソン
11. 法務法人 市民 担当弁護士 韓ギヲョンス
12. 法務法人 シンムンゴ 担当弁護士 チョ・ジェヒョン
13. 法務法人 ハンギョル 担当弁護士 朴ジュミン
14. 弁護士 金ガンウォン
15. 法務法人 三一 担当弁護士 崔鳳泰、李春姫、呉チュンヒョン、宋ヘイク、金インソク、チュ・ギョンテ、イム・ソンウ、 権ヨンギュ


日本語訳:李洋秀・岡田卓己
(市場淳子訳の「憲法裁判所決定『原爆被害者』全文」 訳の「憲法裁判所決定『原爆被害者』全文」 訳の「憲法裁判所決定『原爆被害者』全文」を参照した)

 

[出典] 20110830憲法裁判所決定「慰安婦」全文日本語訳0926版