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朴裕河VS鄭栄桓、「慰安婦」評価めぐり激突(ハンギョレ新聞)

朴裕河「帝国の慰安婦」

 

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1日、ソウルのプルン歴史アカデミーで開かれた『誰のための和解なのか』翻訳出版記念講演会で入国が禁止された著者、鄭栄桓氏がライブ動画で講演会に参加している。発言しているのは『帝国の慰安婦』著者の朴裕河氏=チェ・サング世界同胞連帯事務局長提供

 

雨脚が激しくなるなか、多くの人が集まった。1日午後6時、「誰のための和解なのかー『帝国の慰安婦』の反歴史性」(イム・ギョンファ訳/青い歴史)の翻訳出版記念講演会が開かれたソウル鍾路区・社稷路の「青い歴史」アカデミーは、収容制限を超えた50人の聴衆でいっぱいになった。

 

 ある参加者が語ったように、最初から"異常な講演会"であった。講演会の主人公である「誰のための和解なのか」の著者で明治学院大准教授の鄭栄桓(チョンヨンファン)氏(36)の姿はこの場になかった。在日同胞3世の鄭氏は、今回の講演会のため入国申告書を提出したが「不許可」にされた。国籍表記欄の「朝鮮籍」が不許可の理由であろう。鄭氏はライブ動画で参加者と向き合うことになった。講演会の最後に発言の機会を得たし、聴衆は著者チョン教授に彼の入国禁止が大韓民国という国がどのような国なのか、もう一度考えて作られたとし、「本コンテンツだけでなく、その点についても、本当に感謝している」と述べた。

 

鄭氏の代わりに、この場には同書が批判した『帝国の慰安婦』著者で世宗大教授の朴裕河(パクユハ)氏が参加した。出版社「青い歴史」によると、パク教授は鄭栄桓教授入国不許可の事実がマスコミに報道されたあとチョン教授の本が自分の名誉を毀損したとして、Facebookやカフェなどを介して一般の人たちに事前に告知された講演会自体が、自分のために「非難」と主張し、自分自身を講演会に招待ほしいと要求した。「青い歴史」はそもそも招待が別になくて関心を持った方は誰でも参加することができると答え、朴裕河教授は彼女のドキュメンタリーを撮影する人たちと共に参加した。

 

この奇妙な出版記念講演会は、趙慶喜・聖公会大東アジア研究所研究教授の司会で予定された時刻に開始された。講演会実行委員会の委員として参加したチョン・ヨンスン「民主社会のための弁護士会」(民弁)会長に続き、委員長である徐勝・立命館大学コリア研究センター研究顧問が祝辞を行った。徐勝氏は、鄭栄桓先生の入国禁止措置が「国内法的にも国際法的に瑕疵があると思う」とし、「非人道的であり、民族的損失である「朝鮮籍」同胞入国不許可の規制を直ちに解除せよ」と促した。彼は講演会実行委員会の役割は終わるが、今後連絡会議を別に作り、行政訴訟など必要な措置をとると明らかにした。

 

続いてカン・ヘジョン韓国挺身隊問題対策協議会実行委員の司会で始まった講演会の講演者は3人。 20分ずつの講演の最初のスピーカーは朴露子オスロ大学教授であった。英国など欧米列強の帝国主義侵略史を肯定する英歴史学者ニーアル・ファーガソンに至るまでの歴史修正主義の系譜を示し、「この席に朴裕河教授も参加したが」という言葉とともに、『帝国の慰安婦』を歴史修正主義分派に属す本であると明確に規定した。彼は1960〜70年代まで「大英帝国」が文明をリードした英国のように、帝国主義とファシズム、資本主義の歴史を擁護する歴史修正主義の登場は全世界的な現象であるが、「日本と韓国の歴史修正主義はさらに一歩進んでいる」という特殊性があると述べた。例えば欧州でもユダヤ人集団虐殺であるホロコーストの存在自体を否定する人々が極少数いるが、「いくら歴史修正主義者でも、被害者を加害者に置き換えるケースはない」として、被害者の元慰安婦ハルモニ(おばあさん)らをこうして追い込み、侮辱するのは「世界の他の国ではほとんど見当たらない」と指摘した。

 

「慰安婦」問題の法的な側面を研究してきた2番目の講演者・金昌録(キムチャンロク)慶北大教授は「慰安婦」を帝国の一員として見て、それらの「補償」を放棄したり、日本の法的責任を消滅させたのが韓国政府との朴裕河教授の主張を挙げて、自身の論文を誤って引用した朴教授の問題点は、「その法的論理を理解していなかったということ、そして帝国の論理をそのまま受け入れたということだ」と指摘した。


そして鄭栄桓教授の番になった。スーツ姿の彼はテレビ画像から、闊達で鮮やかな韓国語で、自身の本の内容が、朴裕河教授の本自体の分析と、それが日本でおさめた異例の成功の理由を探っていることであると述べた。彼は日本の政界と知識人社会から喝采を浴びた『帝国の慰安婦』がどのように間違っているかを本のページ数を示しながら取り上げた。続いて、批判に対していつも自身の本を「誤読」したと反論する朴教授の主張こそ、根拠のないことだと指摘した。

 

例えば朴教授は自身の本で引用した日本人ルポライター千田夏光の『従軍慰安婦―“声なき女”八万人の告発』(1973)で朝鮮人「慰安婦」と日本軍が「同志関係」[実際には「愛国」的存在を示す事例と鄭氏は主張:訳者注]だったことを示す事例に引用した朝鮮人慰安婦の話者(89ページ)は、実はすべて日本人慰安婦たちが話をしていたり、それを伝えた業者たちの話者だったとパク教授に「その本の中で、朝鮮人慰安婦の話があれば教えてほしい」と話した。

 

 彼は朴教授が「同志関係」、「同志意識」の実証事例として取り上げた古山高麗雄の小説(98ページ)の内容にも事実とフィクション(フィクション)を同列に扱うことの適切性に疑問を提示しながら、たとえその描写が体験に基づいてものも朴教授が引用した朝鮮人慰安婦ハルエなどの話は、実は日本人兵士の言葉であり、著者自身の言葉であることを確認しながら、「それは『軍人と自分を同一視』する(朝鮮人)「慰安婦」の姿ではなく、『慰安婦と自身を同一視』する(日本人の)『私』であった」と指摘した。

 

また、『帝国の慰安婦』日本語版のみに記された、朝鮮人慰安婦がすべてのことを「運命」と諦めて相手を恨んでも糾弾もせずに許して和解に導くという主張を裏付けるために引用した黄順伊さんの証言も「過剰解釈」であるだけでなく、むしろ朴教授の主張を崩しかねない重要な部分は、引用から除外してしまうなど「証言の簒奪」(109ページ)を行ったと指摘した。

 

そして日本軍無罪論と業者責任論の延長線上で、韓国人の家父長的な純潔主義と批判するためにフェミニズム的な観点を押し出しながら、朴教授が例示した「平和の少女像」に関連する慰安婦平均年齢の誤認も指摘した。朴教授は、日本の敗戦後に米軍の尋問を受けた時の年齢は25歳(実際は23.1歳)で、実際は連れて行か当時は20歳未満がほとんどだったのだ。(名前を明らかにした被害者52人のうち46人が20歳未満の未成年者であり、韓国政府申告者175人のうち156人が未成年者)(66ページ)。そして、韓国政府が拒否することにより、慰安婦被害者たちの「補償」の機会を奪ってしまったと朴教授が主張した部分についても、実は被徴用者の未収金の箇所を慰安婦問題に誤認した結果であり、日本が「補償」したということも根拠のない言葉という点(116 、125ページ)などを短いが明確に指摘した。鄭教授の指摘は、「帝国の慰安婦」で繰り広げられた朴教授の主張の根幹をなす重要な内容に対する反論である。

 

 鄭教授は、朴教授に他人の批判を「誤読」とだけ主張せず、そのような主張の根拠を教えてほしいと依頼した。そして自分が見るに、既存の研究レベルに満たないだけでなく、問題自体を正しく理解していない『帝国の慰安婦』が日本で絶賛されているのは、日本社会がそれを望んでいるからで、和解の障壁は、韓国ではなく日本が原因だと付け加えた。

 

 続いて、権赫泰(グォン・ヒョクテ)聖公会大教授、ヤン・ヒョンア・ソウル大教授、翻訳者のイム・ギョンファ延世大国学研究院教授などの指定討論者が朴教授が話している「反日民族主義」と民族主義の実体、何のためのどんな「和解」なのか、なぜ朴教授は鄭教授が在日朝鮮人であるとの属性を強調しているのかなどについて、質問を投げた。 

 

 鄭教授は、日本の「反日ナショナリズム」[批判:訳者注]は、1980年代の中曽根康弘政権以来、日本が新たな「国際国家」を指向しながら、これに対する周辺国の反発を意識して国益の次元で「謝罪論」が浮上したものであり、『帝国の慰安婦』はそのような脈絡でも「最も極端な植民地近代性論」であるとした[訳者注:実際には鄭氏のコメントにおいて「反日ナショなリズム」批判と「植民地近代性論」への言及は別の事柄としてなされている]。

また、安倍政権の最近の動きは、河野談話と村山談話まで包摂する左右合作的側面があるとして、『帝国の慰安婦』に歓呼する日本国内の動きを「右派の策動とのみ見てはいけない」と強調した。

 

 講演会後に懇談会形式で行われた聴衆との質疑応答で最初の質問者は、朴裕河教授であった。


 朴教授は「昨日(6月30日)この集会を知り参加するかどうかを、今日(1日)の午後になってようやく決めた」として、「すべての批判は、本人の目の前ですることが正しい」と奇妙な論理を展開した。メールで参加要求をしたという朴氏は、自身に「発言の機会をくれ」、「どれだけくれるのか」、「何分くれるのか」と何度も質問した。鄭栄桓教授の問題提起に対する答えや反論を聞きたかった参加者たちは、「そのまま話しなさい」と話し、講演会実行委員も質問に答えるよう依頼した。

 

 そのようにして時間が経過した後に朴教授は、鄭栄桓教授の主張は、自身に対する名誉毀損であり、鄭教授のすべての主張に対して反論をすることができるとして、昨年「歴史批評」などで書いた自身の文章について語った。そして自身の本が「日本でどのような評価を受けたのか見て」ほしいと、その評判は「日本の責任に対して批判的な人々、考えが間違っている日本人たちが送ってくれたと思うなら、大きな誤解」だとした。

 

 そこで鄭栄桓教授が「『歴史批評』に書いたものはしっかり読んた」と、「日韓会談の際、個人請求権を韓国政府が自ら放棄したの主張は『歴史批評』への寄稿文で間違っていると私はすでに指摘したが、それに対する考えを聞かせてほしい」と話した。また、古山高麗雄の小説の過剰解釈の部分の話も依頼した。

 

 再びマイクを握った朴教授は、「私はそんな悪い人ではない」としながら、自分は慰安婦補償問題を「放棄したと書かなかった。日韓代表同士の会話でそんな言葉が行き来したという話」だと述べた。自身の批判や質問への説明や反論を望んでいた鄭教授は、その時点で「これ以上申し上げる言葉はありません」と対話を諦めた。

 

 朴教授は「千田の話はそう読むことができる私の解釈」で、「帝国に動員された慰安婦」の話を「日本からの評価は正確に読んでくれた」と語った。そして、「重要なのは誰と連携してどのような東アジアを作っていくかということだ。アジア女性基金が作られた当時は、日本人が謝罪意識を持っていた。ところが、20年が過ぎた今、日本国民の中で謝罪意識がなくなった。運動をしてきた方はどのように思いますか?両国の敵意が大きくなって、日本の若者たちは韓国がますます嫌いになると話している」と付け加えた。

 

 複数の疑問が湧いた。日本人の謝罪意識を引き出すためには、過去の歴史は埋めなければならないというのだろうか。それこそ「和解」は、真相究明と再発防止ではなく、ただ忘却を通してのみ実現できるというのだろうか。問題は、過去の歴史を忘れない韓国人にあるというのであろうか?

 

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1日夕方、ソウル鍾路区市職員公園前「青い歴史」アカデミーで開かれた<誰のための和解か>翻訳出版記念講演会場。入国禁止された著者の鄭栄桓明治学院大学准教授が、リアルタイム動画を通して講演会に参加している。写真チェ・サング世界同胞連帯事務局長提供 

 

「合理的に歴史を清算してきた日本」対「感情的に無理な要求だけを掲げる韓国人の反日民族主義」という『帝国の慰安婦』が設定した対立構図が、その演繹的思考の結果であると鄭教授と参加者は指摘した。


 その原因がすべて韓国側にあると見るような朴教授と、日本の「知的衰退」と不道徳性、結果的にそれを煽る誤った内容の『帝国の慰安婦』など朴教授の著作が問題の核心だと見る鄭教授と支持者たち。彼らの間にある認識のギャップは、意味ある会話自体が不可能なほど大きく広がっていた。


 このように質疑応答の時間は、朴教授が質問者として乗り出し、それに終始し、さらには進展がなかった。


 鄭教授は日本で一人でブログに記事を書いてきた自分を韓国でこのように評価してくれて本まで翻訳出版してくれたことに心から感謝しながら、「朴裕河教授のホームページもあり、『帝国の慰安婦』も公開されているので、私の本(「誰のための和解か」)と比較してください。どちらの側に立ってほしいという話ではない。私のだけを見ずに、両方を読んで比較してほしい」と話した。

 

 この日の会議を主催して場所を提供した「青い歴史」アカデミーの関係者は、「朴教授がこれまでしてきた言葉を繰り返すのではなく、鄭教授の質問に正しく答え​​て意味のある議論が行われれば、発言時間などはいくらでも、夜通し提供することもできた」として、「朴裕河教授は自分が何を間違っているかどうか自体を知らないようだ」と話した。

 

 講演会を見守った歴史問題研究所の歴史学者チャン・シンは、「『帝国の慰安婦』をめぐるこれ以上の学術論争は何の意味を持たず、生産的にすることもできない」と述べた。「『帝国の慰安婦』現象や朴裕河現象があるだけで、最初から学術論争の対象になるもので​​はなかった。むしろ幾人かが指摘したように、『帝国の慰安婦』を利用したり支持する日本と韓国の「知識社会」を分析する方がはるかに生産的だ。」

 

ハン・スンドン先任記者

 

[原文] 박유하 VS 정영환, ‘위안부’ 평가 두고 화상 격돌 http://www.hani.co.kr/arti/culture/book/750694.html) 

 

※講演会および懇談会の動画(合計時間:3時間6分12秒)(ハングル)


누구를 위한 화해인가 출판기념회 2016.7.1

・朴露子教授講演 15分
・金昌録教授講演 34分
・鄭栄桓教授講演 55分
・懇談会 1時間40分 

忘却のための「和解」―『帝国の慰安婦』と日本の責任

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